31世紀のとある授業にて

西暦3054年。

第四次世界大戦から10年が経った。
この大戦の被害はあまりに甚大で、かつての日本の姿を、今となってはどこからも見出だすことはできない。

しかし存外、日本国民は明るかった。それは全員が、「日本の再興」という共通のゴールを見据えて躍起になっているからだ。

そのため教師たちは、生徒に熱量を持って教育することを心がけた。これからの時代を作っていくであろう、未来の若者のために。

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とある中学校で、歴史の授業が行われている。

教師「それじゃあ今日から21世紀に入るぞ。では21世紀がどんな時代だったか、誰か説明できる人?」

生徒A「第三次世界大戦がありました。」

教師「そうだな。当時はどんな文化が栄えていたんだっけ?」

生徒B「『空気文化』、ですか?」

教師「さすが優等生、予習してるな。その通り。21世紀で押さえるべき大きなポイントは、第三次世界大戦の勃発と『空気文化』の隆盛だ。」

生徒A「ありゃ、空気文化ってなんだっけ・・・」

教師「予習して来いって言ったろ。まあ最初だから簡単に説明しようか。『空気文化』というのは、空気を読む『エアーマン』が担い手の文化だ。当時の日本人の多くは空気を読むことに長けていた。そしてそういった人たちは『エアーマン(air man)』と呼ばれた。

生徒C「かっこいいな」

教師「たしかにな。しかし、この『空気文化』は日本史上最も恐ろしい文化と呼ばれている。なぜかな?」

生徒B「   『日本人は死んだ』から?   」

教師「よく知ってるな。この言葉は、23世紀の哲学者サンーチェの言葉だ。日本人は空気を読みすぎるあまり、他人と違うことを恐れるようになり、自分らしさを失ってしまったんだ。それを彼は 死 という言葉で表現している。

僕は当時の日本の映像を観たことがあるんだが、すごかった。駅の前で募金と署名を呼びかけてる団体があったんだ。それで、駅の前を通り過ぎる人たちみんなに声をかけるんだ。『署名お願いします』って。

それで、びっくりしたよ、今じゃありえないことだが、みんな目もくれず早歩きで去っていくんだ、会釈もなしでね。信じられないだろ?誰かが困っているのに、みんな見て見ぬふりなんだ。一生懸命に演説している彼の声を、誰も聞いちゃいないのさ。

でもな、みんな面倒とかそういうんじゃないんだ。というのはね、目の前の人がそうするから自分もそうしただけなのさ。ほら、空気を読むってのはこういうことだ。みんな、ほんの少しだけの勇気を出せずにいる。

恐ろしいのはここからでね、みんな最初は「申し訳ない」と思ってるんだ。でもそれを何回も繰り返すと?」

生徒A「慣れてしまう・・・」

教師「そう、慣れちゃうんだ。それが普通になってしまうんだよ。いずれみんな、一切の罪悪感もなしに早歩きで目の前を通り過ぎるようになる。それを見た若者が同じように振る舞う。この悪循環が『空気文化』を生んでしまった。

『空気』のように生き、それを繰り返すうちに疑問さえ持たなくなる。みんなが同じ方向を向いて歩きだす。

するとね、たまに別の方向を向いてるやつがいるだろ。そういう、勇気を出して1歩踏み出した人間を、みんな攻撃するのさ。怖いからね。攻撃に耐えられなくなったら、涙ながらに同じ方向を向くしかない。

だから21世紀は空気に全てを左右される同調圧力の時代、『日本人(個性ある日本人)は死んだ』のさ、人と違ってしまうのが怖かったんだ。人はそれぞれ違っていて当然なのにね。

誰もが、誰が引いたかさえ定かじゃないレールに乗って安心し、何を考えるでもなく日々を浪費した。たとえば大学生は暇さえあれば飲み会に金と時間を費やし、楽な単位に目を光らせ、四年間の学費はドブの底に沈んでいった。今はみんな目的をもって大学に通うだろ?でも当時は違った

大学は飲み会とサークル。当時の相場はそれと決まってた。未成年で酔いつぶれてる自分に酔ってた。でも、みんな、酔ってた。集団で陶酔してた。そんな世の中を憂いたシンガーや作家も、ファッションとして利用された。熱狂に身を捧げることで、虚無感を埋めようとしたんだろう。

そんな風に、誰もが「群衆の中のひとり」になった。それはすなわち、『エアーマン』になったってことだ。そしてみんな、よもや自分がエアーマンになっているなんて思いもしなかった。」

生徒B「そんなときに・・・・」

教師「そう、そんなときに第三次世界大戦は起こった。あまりにも突然の大戦で、日本人の大半が帰らぬ人となった。あっという間にね。みんなそんな風に、あっけなく人生の幕を下ろしてしまったんだ。バッドエンドさ。」

生徒C「そんな彼らは死の直前、一体なにを思って、なにを考えていたのでしょうか?」





教師「さあ、なんだろうね。あのとき飲んだ すだちハイ がうまかったとか、せいぜいそんなことじゃないか?」

Written by おうか


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