16歳
0時になって、16歳になったからといって何が変わるわけでもなかった。あいかわらず好きな人には好きと言えないままだし、トマトは食べられないままだった。
ギターを始めたのもこの年だった。好きな人がバンド好きだったからというものすごく安直な動機で、今では好きというのが少し恥ずかしいようなバンドを聴いていたし演っていた。今でこそ、9月21日のことを思い出したりするが、昔は3つ数えたり4つ数えたりしていたものだ。
そういえば、はじめてのセックスは15歳の頃だった。それを失うことで何かが変わると思ったけど、特に何も変わらなかった。ただそこにあったのは恋か愛のどちらかだった気がする。どちらだったかはわからないままだ。恋や愛が何かもわからないまま、僕は初めてのセックスをした。今になってわかるだろうか、と自問するとそれはいまいち怪しかったりする。
そんなことを思い出していたけど、16になった僕にセックスは珍しいことではなかったし、正直どうだってよかった。
ただその時だけは相手が自分に心を開いてくれているような気がして、それがなんか好きだった。
成績はよくも悪くもなかった。オール3に毛が生えたくらいだった。強いて言えば、国語は良かった。文章を書くのも読むのも、昔から僕は好きだった。
16歳、僕はアメリカに留学に行った。今考えると深く考えずに、その時の気分で決めて行った留学だったけど、行ってよかった。ちゃんといじめられたし、ちゃんとひとりぼっちだった。この時の経験が僕を強くしているし、僕の今を作っている。特に嫌いなものに関しては、この時に強く胸に刻み込まれた。
そして、アイデンティティが確立しようとしていた。賢くなって、やっと岩波文庫の白が少しずつ理解できるようになった。
恋人に浮気されてしまって別れて、と思ったら嫌いな人に告白されて困って、どうでもいい人と付き合ったりした。
そんな曖昧な16歳を過ごしていた僕だが、もう20歳になるのだ。人はこうして死んでゆくのだろう。
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